神経外科
- 神経外科は脳・脊髄といった脳脊髄神経系の病気(神経疾患)と、筋肉や末梢神経の病気(神経筋疾患)に対応する科目です。椎間板ヘルニアをはじめとした脊髄の病気に対する外科治療やリハビリテーションを取り入れた保存療法に積極的に取り組んでいます。
当院の神経外科について
神経外科の診断・検査
当院では各種検査を院内で行えるため、早期発見・早期治療を行うことが可能です。
神経外科の検査
神経学的検査
神経の病変部位がどこにあるのか、病状はどの程度進行しているのか、などを診断するために行う検査です。
画像診断(CT検査)
脊椎の奇形・脱臼・骨折・腫瘍などを評価するために行う検査です。
手術用顕微鏡
代表的な神経外科の病気
環軸不安定症
1.病気の概要及び症状
環軸関節は頭部と首部をつないでいる関節で、頭部の滑らかな回転運動を実現しています。環軸関節は、環椎と軸椎という2つの骨で構成されていますが、骨の組み合わさりがずれたり不安定になったりする病気を環軸不安定症と呼びます。軽度の場合は首の痛みやこわばり・起立姿勢や歩行の異常が発生し、重度の場合は四肢の麻痺・排尿障害・呼吸異常などの様々な症状が認められます。外科手術によりスクリューやピンを用いて環軸関節を安定化し、関節の癒合を待つことが基本方針となります。
2.診断のために行う検査
視診および触診
四肢の不全麻痺や運動失調が見られ、首を痛がる様子や、知覚過敏によりしきりに首を痒がる様子が見られます。頭部や首部を触られることを嫌がるようになり、特に首を曲げた際に痛がることが多いです。 神経学的検査にて四肢の運動機能不全や姿勢反応の低下または消失、手足のつっぱりや筋肉のこわばり(上位運動ニューロン徴候)が確認されます。
画像検査
首部のレントゲン画像矢状断像にて、環椎と軸椎の脊柱管の位置関係がずれている、首を曲げることで、環椎と軸椎の隙間が広がる所見を確認します。
またお腹側から背中側に向けて撮影したレントゲン画像にて、軸椎の歯突起が確認できない場合もこの疾患を示唆します。
ただ、レントゲン検査では神経自体の評価ができないため、MRIの撮影が必要です。
3.治療方法
外科療法
頸部腹側から亜脱臼した環軸関節を整復したのち、ピンやスクリューを挿入して固定します。さらにそれを強化するため、医療用セメント(ポリメチルメタクリレート)などで支持固定を追加する方法が一般的です。
椎間板ヘルニア(頸部・腰部)
1.病気の概要及び症状
背骨はたくさんの椎骨(ついこつ)で構成されますが、この椎骨の間にあるクッションを椎間板と呼びます。この椎間板が飛び出して(膨れて)、脊髄という神経を圧迫し、神経に異常を生じるのが椎間板ヘルニアです。痛み・うまく歩けない・足を動かせない・おっしっこを漏らしてしまう(排尿障害)といった神経麻痺の症状が生じます。症状が軽度な場合は内科治療で対応することもありますが、神経麻痺が強い場合には外科手術が必要です。手術では脊髄を圧迫している椎間板を取り除くことが基本方針となります。
2.診断のために行う検査
画像検査
単純レントゲン検査では神経の病変が写ってこないため診断できない場合が多く、ほとんどの症例でMRI検査が必要になります。
MRI検査では椎間板の脱出や突出の評価をするとともに、脊髄や椎間板の編成の程度を評価します。そのため椎間板以外の腫瘍などの病変も診断できます。
矢状断像では突出した椎間板物質により神経が圧迫されている様子や、その箇所の横断像にて左右どちらに病変が偏っているかなどを視覚的に診断できます。
3.治療方法
投薬治療
痛みを誘発する免疫機能を抑えるステロイド剤を投薬したり、炎症や痛みを引き起こす原因物質を阻害するお薬を投薬します。
手術
背骨を一部削り、脱出してしまった椎間板物質を取り除く作業を行います。
リハビリテーション
術後早期にリハビリテーションを開始し、起立の維持や補助下での歩行訓練などで筋肉の低下防止と早期改善を目指します。
変性性腰仙椎狭窄症
1.病気の概要及び症状
変性性腰仙椎狭窄症は背骨の端部に位置する第7腰椎と仙骨(人で言う尾てい骨)の間が何らかの原因で狭くなってしまい、そこを通る神経を圧迫することで、後肢麻痺などがおきる病気です。腰の痛みが出ることが多く、さらに尻尾が動かしにくくなったり、後ろ足が痺れて立てなくなったり、酷くなると排尿排便困難になることもあります。
2.診断のために行う検査
視診および触診
びっこを引いて歩いていることが多く、後ろ足の不全麻痺や脊髄反射の低下が認められる症例は少ないです。ただ、病態が進行すると失禁などの排泄障害や、後肢の不全麻痺を呈するようになります。 整形外科的検査にて尾を上げると嫌がる、腰部を反るように伸展させると痛がる(ロードーシス試験)、神経学的検査にて後肢の姿勢反応の低下や、下位運動ニューロン徴候などを検出します。
画像検査
第7腰椎と仙椎関節のレントゲン矢状断像にて伸展・屈曲ストレス撮影を行うことで、関節の可動性を評価することがあります。ただ神経の圧迫の程度や、椎間板ヘルニアなどはレントゲンではわからないため診断が困難であることが多く、この場合はMRI検査を追加で実施する必要があります。
MRI検査では横断像にて椎間孔の狭窄病変や、神経の圧迫の程度を評価することができます。椎間板の炎症などその他の病変も評価できます。骨自体の奇形や構造異常がある場合はさらにCT検査を実施する場合があります。
3.治療方法
保存療法
神経の圧迫による疼痛のため、神経痛を抑える鎮痛薬や消炎剤の使用、運動制限により過度なストレスを腰仙部にかけないように生活してもらいます。 これで十分な効果が得られない場合は、硬膜外腔にステロイドを投与する方法も存在し、疼痛のみの症状であれば改善する可能性もあります。ただしいずれも根本治療にはならない場合があります。
外科療法
椎間孔が狭窄している症例には椎間孔拡大術、脊柱管内の狭窄が見られる症例には背側椎弓切除術、脊椎滑り症など関節が不安定な症例には椎体固定術が選択されます。
脊椎骨折
1.病気の概要及び症状
交通事故や高いところからの落下により、脊椎(いわゆる背骨)が損傷する重度の病気です。他の骨とは違い、脊椎の中央には脊髄(せきずい)と呼ばれる重要な太い神経があり、骨折に伴い脊髄を損傷すると、四肢の障害・麻痺・排泄障害など様々な障害をきたします。重篤な症状であることが多く、内科的治療を施しながら検査を行って、速やかに治療方針を決めることになります。
2.診断のために行う検査
視診および触診
脊椎骨折の場合多くが外傷に伴い発症するため、皮膚からの出血や骨折箇所の内出血、疼痛などが見られます。神経が障害されている場合は姿勢反応の低下や四肢の不全麻痺により寝たきりの状態、排泄障害などが見られる場合もあります。
かなりの疼痛があると予想され、触るだけでかなり痛がる、また攻撃を示す場合もあります。加えて動き続けることで神経障害を悪化させる可能性があります。
骨折や神経症状だけでなく、内臓や呼吸器の状態など全身状態の把握が非常に重要であり、迅速かつ簡潔に血液検査や超音波検査などを追加で実施する必要があります。
画像検査
レントゲン検査では骨折部位の確認やどのような骨折かを判断することが可能です。ただし神経の評価はできないため、脊髄損傷の程度を診断するにはMRIの撮影が必要です。ただし、レントゲン検査だけでは正確な評価が困難である場合や、骨折が複数箇所にわたっている場合は、骨の状態を正確に把握するためにCT検査を実施する場合もあります。
3.治療方法
保存療法
運動を徹底的に制限し絶対安静の状態で、疼痛緩和のため消炎剤や鎮痛薬を使用します。
外科療法
様々な金属プレートやネジ(インプラント)を用いた骨折の整復を実施します。
また脊椎が不安定な状態である場合は、骨折の整復とともに椎体固定術を併用することがありますが、脊髄の障害がかなり重度な場合は外科療法でも寛解する可能性が低い場合もあります。
当院の神経外科での症例
椎間板ヘルニア
- 椎間板は椎体の間に存在し、椎体の動きをスムーズにしたり、椎体にかかる衝撃を吸収する役割を担っています。
- しかし、年齢と共に椎間板が固くなり、上記の役割を果たせなくなるだけではなく、場合によっては椎間板内容物が飛び出してしまう、「椎間板ヘルニア」になってしまう場合があります。飛び出した内容物が隣接する脊髄神経を障害すると、痛みや麻痺が引き起こされ歩けなくなる場合もあります。
- 診断は臨床症状と神経学的検査、レントゲン検査、MRIなどを用いておこないます。治療は症状により変わります。痛みだけの場合は安静指示と内服薬での治療を、一方、麻痺が認められる場合は手術を行うことが多いです。
- 手術の目的は飛び出している椎間板物質の摘出が主な目的ですが、脊髄神経に近い椎体を削りながら病変部位に到達する必要があります。そのため、非常に繊細な手術となります。
- 当院では周囲の組織へのダメージを最小限にして骨を安全に削ることのできる機器を導入し、より安全な手術が可能となっております。