麻酔について

手術時、なぜ麻酔が必要になるか

手術する際、薬物で神経活性を抑制することで、人為的に『意識、動き、痛み』を消失させるためです。
これらを消失させることは、安全な手術を行うために必要な処置です。

全身麻酔するために必要な抑制要素

麻酔のリスクと当院でのリスクに対する対策

麻酔のリスク

全ての麻酔薬、鎮痛薬は、用量依存性に発現します。主なリスクとして、循環抑制(血圧低下)、低体温、呼吸抑制が挙げられます。これらのリスクは、生命維持にも影響を及ぼします。

当院でのリスクに対する対策

1.適切な前投与薬(点滴、昇圧剤)

「前投与薬」は、手術や他の医療処置前に投与する薬剤のことを指します。これらの薬は、動物たちが手術や処置中に感じる不快感や痛みを軽減し、手術後の回復を助けるために使用します。

〈 麻酔の投与方法 〉

  • 点滴・・・血液循環量を保持するため
  • 有害事象予防薬(特定の麻酔薬)・・・麻酔導入剤による血圧低下、流涎予防のため
  • 鎮痛剤・・・導入前の不安除去のため(過剰な頻脈、興奮状態の回避
          

2.少ない麻酔量、適切な薬剤の組み合わせ

当院では、薬の量を調合し、適切な薬を適切な量で併用します。そうすることで、より、安全な麻酔を投与でき、リスクを抑えられます。

 

3.生体モニター設置

当院では、手術室に生体モニターを完備致しております。生体モニターでは、心電図、呼気CO2濃度、酸素飽和度、血圧、体温、呼吸数を確認することができます。この生体モニターで常時、生体を観察することで、緊急時にも早期発見できます。
また、当院では手術中の数値を、定期的に記録し、異変発見の見逃し対策も徹底して行っております。

生体モニター

心電図、呼気CO2濃度、酸素飽和度、血圧、体温、呼吸数を観察できます。

常時観察

生体モニターを通して、手術中の動物の生体数値を常時観察しています。

 

4.低体温対策・感染症対策

当院では、手術室に加温装置を導入し、低体温対策を行っております。また、手術室内を高圧にし、手術室内に菌が入って来ないように工夫致しております。

【低体温対策】加温装置

手術中の動物たちの体温を守るため低体温対策として、加温装置を使用しております。

【低体温対策】加温装置の使用様子

手術中の動物たちのシート内に加温装置のホースを入れ、体温低下を防ぎます。

【感染症対策】 へパフィルター

感染症対策として、手術室を高圧保持させる機械を導入しております。
高圧保持することにより、手術室内に菌が侵入することを防ぎます。

当院の全身麻酔治療の手段

全身麻酔においては、⑴鎮静、⑵意識の喪失、⑶筋弛緩、⑷鎮痛といった4つの要素をバランスよく調整する子とが求められます。しかしこれらを単一の麻酔薬で完璧にコントロールすることは難しく、全身麻酔に必要な麻酔薬が過剰になる可能性があります。
この課題に対処する手段として、異なる作用を持つ複数の薬物を同時に使用し、⑴鎮静、⑵意識の消失、⑶筋弛緩、⑷鎮痛の4つをバランス良く実現するのがバランス麻酔です。これにより、過度な麻酔深度を回避しつつ、動物たちの安全性を確保します。

また、手術中および手術後の疼痛管理(とうつうかんり)も極めて重要です。疼痛管理の適切な施行は、麻酔薬の使用量を最小限に抑えつつ、手術後のストレスを軽減し、早期の回復を促進する効果があります。これを実現するために、異なる作用機序を有する薬物を組み合わせ、単一の鎮痛薬よりも効果的なマルチモーダル鎮痛療法を採用しています。

当院では、このバランス麻酔とマルチモーダル鎮痛療法の理念に基づき、全身麻酔を実施しております。動物たちの健康と安全を最優先に考え、最新の医学的手法を駆使して手術および麻酔を調整しています。

バランス麻酔

上記で記載したように、異なる作用を持つ複数の薬物を同時に使用し、⑴鎮静、⑵意識の消失、⑶筋弛緩、⑷鎮痛の4つをバランス良く実現するのがバランス麻酔です。当院では、バランス麻酔を導入する上で、麻酔を投与するタイミングにもこだわっております。手術・麻酔の流れと共にご説明致します。

1.麻酔前投薬

「前投与薬」は、手術や他の医療処置前に投与する薬剤のことを指します。これらの薬は、動物たちが手術や処置中に感じる不快感や痛みを軽減し、手術後の回復を助けるために使用します。

〈 麻酔の投与方法 〉

  • 点滴・・・血液循環量を保持するため
  • 有害事象予防薬(特定の麻酔薬)・・・麻酔導入剤による血圧低下、流涎予防のため
  • 鎮痛剤・・・導入前の不安除去のため(過剰な頻脈、興奮状態の回避)

2.麻酔導入

麻酔導入を行う目的は、気管チューブを挿入できる状態に誘導することです。口を大きく開けた状態で気管チューブを挿入します。

麻酔の投与

気管チューブを挿入するための麻酔を注射で投与します。

気管チューブを挿管

動物が麻酔にかかった後、気管チューブを挿管します。

3.麻酔維持(ガス麻酔)

ガス麻酔で、麻酔を維持する目的は、意識消失状態の維持によって、必要な手術時間を確保するためです。

気管チューブからガスを流して麻酔を維持

挿入した気管チューブからガスで麻酔を流し麻酔を維持させます。

手術中の様子

麻酔を維持させた状態で安全に手術を行います。

吸入麻酔の維持

挿入した気管チューブからガスを吸入させています。

4.麻酔回復(麻酔から覚醒させる)

手術終了後、ガス麻酔を終了させます。循環、呼吸状態の回復を確認し、補助なしで呼吸できるか、起立できるかを確認します。
※術後の鎮痛はそのまま継続します。必要なら鎮静剤を併用し、無理のない回復を目指します。

〈術後入院管理〉

点滴チェック、気力チェック、食欲チェック、患部の腫れ、痛みの度合い、投薬、
床替え、排泄物のチェックなど

マルチモーダル鎮痛

上記で記載したように、異なる作用機序を有する薬物を組み合わせ、単一の鎮痛薬よりも効果的な鎮痛効果を発揮させる療法が、マルチモーダル鎮痛療法です。各々の投与量を少なくすることで、副作用の軽減を期待でき、相乗的な鎮痛効果を得ることができるのが特徴です。当院でマルチモーダル鎮痛療法として組み合わせて使用している麻酔薬と鎮痛剤についてご説明致します。

鎮痛剤(痛みを抑制)

・麻薬系鎮痛剤(点滴、注射、貼付)

[特徴]痛覚神経の抑制
[副作用]呼吸抑制、嘔吐、徐脈 / 麻酔覚醒の遅延、自発呼吸復活の遅延 / アレルギー反応※モルヒネ使用時 / 脳圧、眼圧上昇※ケタミン使用時 / 心拍数増加、脳血流量増加※ケタミン使用時

・神経ブロック(浸潤、散布)

[特徴]神経線維を麻痺させ、鎮痛刺激の脳への伝達を抑制
[副作用]不整脈、血圧低下、心停止

・抗炎(注射)

[特徴]炎症反応を抑制
[副作用]腎機能、凝固系異常、胃腸疾患症例の悪化

麻薬系鎮痛剤(点滴、注射、貼付)

神経ブロック(浸潤、散布)

術前検査について

術前検査を行う目的

術前検査を行う目的は、動物の健康状態を把握するためです。実は麻酔によるリスクが発現しやすくなる原因には、健康状態が大きく関わってきます。健康状態を把握することで、動物たちが麻酔に耐えられる状態なのか、また麻酔中に起こりえる問題を把握します。

〈 麻酔中に起こりうる問題 〉

  • 貧血 → 酸素運搬能の低下
  • 肺・気管の異常 → 酸素交換能の低下
  • 内臓機能異常 → 薬剤解毒、排泄能力の低下
  • 凝固異常 → 手術中の出血増加
  • 白血球・炎症指数の把握 → 動物の敗血症など、重度な感染や疾病がないかの把握

術前検査のメニュー

当院では、術前検査として下記の3つのメニューを導入致しております。

・スクリーニング血液検査

貧血、脱水、白血球、血小板数、肝臓、腎臓など動物の状態把握のため行います。凝固能や炎症指数、ホルモン測定も必要に応じて測定します。

・心臓エコー検査

心機能の評価を確認します。

・胸部レントゲン検査

心臓、呼吸器の異常がないか判定します。

・心電図検査

心臓が鼓動を打つ際の微弱な電気信号を波形として記録し、その波形から心臓の状態を把握する検査です。

術前の健康状態によって変わる、麻酔のリスク

下記は、アメリカ麻酔科学会の身体的状態分類の表です。動物たちの健康状態によって麻酔による、リスクが上下します。
※ASA-PS ( The American Society of Anesthesiologists Physical Status )分類

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クラス 動物の状態 具体例 麻酔関連死亡率
ASA I 正常で健康な状態 認識できる疾患がない動物:
【対象】 去勢、避妊、断耳
0.05~0.591% 0.11~1.061%
ASA II 軽度の疾患を有する状態 ショック症状の無い骨折した動物、代償機能の有る心臓疾患動物:
【対象】 老齢動物、軽度の骨折、肥満、皮膚腫瘍、潜在精巣
0.726% 1.111%
ASA III 重度な疾患を有する状態 脱水、貧血、発熱を有する動物:
【対象】 慢性心疾患、発熱、脱水、貧血、開放骨折、軽度肺炎
1.01~1.33% 1.4~3.333%
ASA IV 重度な疾患を有する状態で生命の危機にある場合 重度の脱水、貧血、発熱、尿毒症の有する動物、代償機能が破綻した心臓疾患動物:
【対象】 尿毒症、膀胱破裂、脾臓破裂、横隔膜ヘルニア
18.333% 33.333%
ASA V どんな治療をしても24時間以内に死亡する可能性のある状態 重度のショック症状、重度の損傷を有する動物:
【対象】 極度のショック、脱水、末期腫瘍、長時間の胃拡張捻転
   

詳しくは、動物の状態に合わせて、病院で詳しく説明します。