整形外科

当院の整形外科について

整形外科について整形外科の病気は、先天的な異常(奇形)や幼少期から発症する病気もあります。
そのため、日常的に散歩時などから歩き方や段差の上り下りなどを観察しておくことが重要です。整形外科の病気は発症しての早期に診断や治療を行うことができると、悪化を防ぐことも可能です。気になる症状があれば病院へご相談にお越しください。

整形外科の診断・検査

整形外科の診断・検査整形外科においては、歩き方や関節の曲がり方などの見た目に分かる症状もあります。また、犬種によりなりやすい病気もあります。まずはどういった症状が現れているかの問診を行いながら、部位や負荷の度合いを測定する検査を進めていきます。

整形外科の検査

触診

股関節や関節を触診にて判断します。

画像診断(レントゲン検査)

レントゲン検査を行い、関節の状態を把握します。

整形外科的検査

歩行検査などで、歩幅や姿勢の状態から、異常のある部位の検出や負荷の度合いを測定します。

代表的な整形外科の病気

当院の整形外科診療でよくみられる病気の一部をご紹介します。

骨折

1.病気の概要および症状

骨に強い力が加わり損傷すると骨折がおこります。部位や折れ方によっていくつかのタイプがあり、タイプや年齢などによって治療法を決定します。
骨折はとても強い外力が加わって起きる事が多く、骨折に伴い皮膚・神経・血管・筋肉・内蔵などに損傷を生じている場合もよくあります。合併している疾病により検査・手術・術後の対応や費用も変わります。

2.診断のために行う検査

視診および触診
  • 折れている方の手や足を上げていたり、びっこを引いて歩く様子がないか確認します。
  • 患部を触った際の反応や、腫れ・発熱がないかを確認します。
  • 開放骨折の場合は、折れた骨が皮膚を貫いていることがあります。
画像検査

骨折が疑われる部位のレントゲン画像を撮影し、骨折の箇所、どのような骨折なのか、などを判断します。


3.治療方法

保存療法

添え木を設置して包帯を巻くなどで骨折部位の安定化を図ります。ただし骨折部位が複雑で綺麗に元の状態に戻せない場合は、変形した形で骨がくっつくする場合や、骨折自体が治らない可能性もあります。

外科療法

骨折の部位やタイプに応じて様々な金属プレートやネジ(インプラント)を使い分け、元の骨の形に治します。骨折の治療には、骨に体重をかける必要があるため、必要に応じてインプラントを外して取り出す処置を追加で実施することもあります。

リハビリテーション

手術をしてすぐは、骨折部位がずれたりインプラントが外れる可能性があるため、運動を制限したりケージから出さないようにします。ある程度治ってきたら、少しずつ骨に負荷をかけるために運動制限を解除する必要があります。


膝蓋骨脱臼

1.病気の概要及び症状

膝蓋骨という、いわゆる”膝の皿”が本来あるべき位置からずれてしまう病気です。膝関節がうまく伸ばせず体重がかけられなくなり、歩き方に異常が出てしまいます。

2.診断のために行う検査

視診および触診

触診によって膝蓋骨の脱臼を確認し、グレードを分類します。

  • グレード1:膝蓋骨は通常は正しい位置にあるが手で押すと簡単に脱臼し、手を離すと正常な位置に戻る
  • グレード2:膝蓋骨は通常は正しい位置にあるが、膝を曲げたり手で押すと脱臼し、膝を伸ばしたり手を離すと元の位置に戻る
  • グレード3:膝蓋骨は常に脱臼した状態で、手で押すと戻るが手を離せば再脱臼する
  • グレード4:膝蓋骨は常に脱臼した状態で、手で整復することができない
画像検査(X線検査)

レントゲン検査によって膝蓋骨の内側または外側へのズレを確認します。

3.治療方法

外科療法

患部の様子に合わせて、次のような手技を複数併用することが必要になります。

  • 大腿骨滑車形成術:滑車溝を深くする手術
  • 脛骨粗面転移術:膝蓋靭帯の付着する脛骨粗面を、転移させてピンなどで固定する手術
  • 脛骨内旋制動術:膝関節における脛骨の回旋を制御するために縫合糸を設置する手術
  • 関節包の縫縮:伸びきっている関節包を縫い縮めることで膝蓋骨の移動を抑制する手術
  • 矯正骨切り術:大腿骨および脛骨の骨変形が重度の症例では、回旋方向を矯正することを目的として行われる手術
保存療法(投薬療法)

症状の程度によりますが、外科治療をしない場合は関節が徐々にすり減り、変形性関節症へと進行します。年齢や他の病気や飼い主様の経済的理由により外科治療を選択できない場合には、次にような内科治療を行います。

  • 薬(鎮痛剤や消炎剤)やサプリメントの投与
  • 運動制限
  • 適正体重の維持
リハビリテーション
  • アイシング
  • 手術した足をゆっくり伸ばして縮める運動

前十字靭帯断裂

1.病気の概要および症状

前十字靭帯断裂とは、太ももの骨(大腿骨)と、すねの骨(脛骨)を繋ぐ十字靭帯(骨と骨をつなぐ2本のバンド)のうち、前十字靭帯が断裂してしまう病気です。犬ではスポーツによる外傷によっての断裂はまれで、ほとんどが加齢による変化があらかじめ靭帯に生じていて、その場所に力がかかったことで断裂します。その為、散歩や階段を上るといった日常生活で行うような軽微な運動をしただけで損傷してしまうことがあります。一方で、猫では外傷による発症が一般的です。前十字靭帯が断裂した場合、半数以上の症例で半月板(大腿骨と脛骨の間のクッション)の損傷が併発します。

2.診断のために行う検査

視診および触診

身体検査では患部の足の筋肉の萎縮や膝関節内側部が厚くなっているかを確認します。
整形外科学的検査として、次の2つの試験を行います。

  • 脛骨の前方引き出し試験:すねの骨(脛骨)を膝よりも前方へ伸ばす試験
  • 脛骨圧迫試験:足の根元の関節の曲げ伸ばしを行い、脛骨を前方へ動かす試験。
    これは動物が足を着地した時の状態に近いため、歩行時に膝関節の不安定性があるか否かを判断するのに有用な検査です。
画像検査(X線検査)

膝関節のレントゲン撮影を行うことで、目で確認することのできない関節の内部の様子を確認します。 脛骨の前方変位、関節液の貯留、軟骨がトゲのようになったもの(骨棘)の形成など関節炎の原因になる症状がないかを確認します。


3.治療方法

保存療法

活動を制限し、体重を減少させ、鎮痛剤を用います。

外科療法

次のような外科的方法で治療を行います。

  • 関節内固定法・関節外固定法:縫合糸を前十字靭帯と同様の場所にかけることで再現し、再建する。
  • 脛骨高平部水平骨切り術(TPLO):機能的安定化術。脛骨の上端を半円状に骨切りし、回転矯正する。脛骨高平部の角度を緩やかにして、脛骨を前に出にくくする。

 

股関節形成不全

1.病気の概要および症状

生誕時には正常だった股関節が、関節の緩みが根本的な原因となり異常に形成されていく病気です。一般的には両後ろ足に症状が発生し、起き上がるのが大変だったり運動を嫌がるようになります。

2.診断のために行う検査

視診および触診

後ろ足の筋肉量が減少することで前傾姿勢や両足を狭めて立つ姿勢になります。歩行時に腰を振ったり、うさぎ跳び歩行(特に若齢で)が見られます。
股関節を後ろに引くように伸ばすと痛がる様子を確認したり、麻酔をかけてオルトラニ試験・バーデン試験を行い股関節の緩みを検出します。

画像検査

お腹を下にして背中からレントゲンを撮影し、股関節の緩みを視覚的に確認します。関節炎の有無も合わせて確認し、手術方法を選択します。


3.治療方法

保存療法

痛みの管理のため、内服薬や注射で痛み止めを投薬し、体重管理や運動制限も実施します。 脱臼や亜脱臼がある場合は、包帯による固定(エーマースリング包帯法、膝固定包帯法など)を実施する場合もあります。いずれの処置も根本の解決には至りません。

外科療法

予防的手術と救済的手術に大別され、若齢で関節炎を起こしていない場合は予防的手術として骨盤三点骨切り術(TPO)が実施可能です。
成犬または関節炎が重度な場合は救済的手術として、大腿骨頭骨頸部骨切除術(FHO)、アンカースクリューを用いた脱臼整復術、股関節全置換術(THR)などを実施します。

リハビリテーション

術後しばらくは運動制限やアイシングを実施します。関節がある程度安定化してから徐々に運動制限を解除し筋肉の回復を図ります。
FHOを実施した場合はお尻の筋肉を積極的に使うことで関節の安定化を図るため、運動を制限せずにリハビリテーションを行うことが多いです。THRを実施すると術後早期から患肢を使用できることが多いです


 

レッグぺルテス

1.病気の概要および症状

太ももの骨(大腿骨)と仙骨(人で言う尾てい骨)の結合部への血流が不足することで、大腿骨の骨頭部分が壊死してしまう病気です。痛みのために足を地面に着けることができなくなり、浮かせたりするなど歩き方に異常が見られます。外科手術以外の治療の選択肢はなく、壊死・崩壊した大腿骨頭と大腿骨頭頸部の切除を行って、術後のリハビリテーションで回復を図ります。

2.診断のために行う検査

視診および触診

足の筋肉量や歩く様子を視診し、痛みや関節のズレがないかを触診で確認します。また、股関節を後ろに伸ばし、痛みが生じるかどうかや、パチパチという音がしないか、また筋肉の廃用性萎縮がないかを確認します。

画像診断

レントゲン検査において、大腿骨頭部および頸部の透過性亢進や大腿骨頭の扁平化などを確認します。
Frog leg view撮影法(大体骨頭の異常を検出しやすくするために、股関節を曲げて撮影する方法)を実施します。


3.治療方法

外科手術

大腿骨頭を切除するのが基本方針となります。切除した部位に再生された組織が関節の役割を担うようになり、リハビリも併せて行うことで徐々に正常に歩行することができるようになります。

リハビリテーション

患部側の足の筋肉量が落ちていることが多いため、術後早期から歩行させ、しっかりと足を接地させることで筋肉量の低下を予防します。
また、水中では体重をかけずに運動することが可能であるため、水泳によるリハビリでの積極的な足の使用によって、筋肉量の改善を期待します。

当院の整形外科での症例

前十字靭帯断裂

膝関節の安定性に寄与している十字靭帯の損傷は、小動物の整形外科で多く遭遇する疾患です。犬において前十字靭帯断裂の整復には、脛骨の関節面角度を調整する「脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)」が術後成績の一番良い術式と考えられています。
しかし、この手術には多くの設備と技術が必要なため、限られた施設でしか実施されておりません。
当院では最善の結果を導けるよう、設備・スタッフ共に充実させこの術式を採用しています。
正常
十字靭帯断裂
※前十字靭帯断裂によって大腿骨が後ろ側にずれてしまい、体重を支えることができません。

TPLO手術(脛骨高平部水平化骨切り術)

大腿骨と脛骨の接触する面(脛骨高平部と言います:赤い線)の角度を調整します。角度があればあるだけ体重をかけたときの不安定性が増えると考えられています。
治療前
治療後
※この角度を水平化することで大腿骨が関節面で安定することを目的とした手術です。

骨折

橈尺骨骨折(とうしゃくこつこっせつ)

動物診療で多く遭遇する骨折です。特にトイ犬種で多い傾向にあり、細い骨の整復には細心の注意が必要です。トイ犬種の橈骨は割りばし程度の太さしかなく、かつ骨折整復に使用できる骨の長さも限られている症例にしばしば遭遇します。そのような整復難度が高い骨折の場合、手術方法を熟慮して執刀する必要があります。当院では豊富な種類のインプラント、手術方法、手術機器を整えており、最適と思われる手術方法を選択することが可能です。
治療前
治療後
治療前
治療後

上腕骨骨折

上腕骨の骨折は外傷で起こることが多いですが、キャバリアなどの犬種では生まれつき肘関節を形成する上腕骨側の骨(骨顆:こっか)が脆い傾向にあることがわかっています。そのため、ふとした動きで急に骨折が起きる場合もあり、該当する犬種を飼われている場合は注意が必要です。
治療前
治療後
治療前
治療後

使用するインプラント

プレートとスクリュー
骨折後の治療には骨片同士の安定が必要となります。骨折を安定させるためには金属製のスクリューとプレートが多く使用されます。
プレートには、様々な大きさや機能を備えたものが存在し、骨折の状態によって使い分けることが重要となります。
当院では小動物用として使用できるプレートを出来る限り多く揃え、様々な骨折症例に対応できるよう準備しております。

脱臼

膝蓋骨脱臼

トイ犬種に多い膝蓋骨脱臼は、太腿骨と太ももの筋肉バランスが悪くなり、膝への負担が増える整形外科疾患です。症状のないときは手術を行わない場合もありますが、成長期から脱臼している場合や、繰り返し後ろ足をかばう場合などは手術が勧められます。
手術では浅くなった膝の溝を深くする、太もも筋の軌道を修正する、緩んだ関節を修正する、などの術式を組み合わせて行います。
重度の場合は大腿骨を短くする手術が必要となることもあり、重症化する前に手術することが推奨されています。
手術するべきか否かの評価は難しい場合もあります。不安に思った場合、一度診察することをお勧めします。
治療前
治療後
治療前
治療後

股関節形成不全

股関節形成不全は、股関節を構成する大腿骨頭(凸)と寛骨臼(凹)との形態的不一致を背景として股関節に緩みが生じ、関節炎を引き起こします。関節炎の影響で痛みを感じるようになると動物たちはかばうような歩き方や患肢を使わなくなります。
股関節形成不全は若いうちに診断がつけられると、関節炎の進行を抑える目的とした手術が可能ですが、関節炎が起きてしまうと手術は人工関節置換術か骨頭切除術となります。出来る限り股関節を温存して生涯快適な歩行を行なってもらうためには、早期発見と早期治療が重要となっております。
当院では股関節形成不全の診断に必要な知識と経験、検査機器によって、早期発見に取り組んでおります。
※左股関節救済のため、二点骨盤骨切り術を実施。
※右画像は二点骨盤骨切り術後のレントゲン